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日記とかはきだめとか創作とか。 このブログはライアーソフト「 黄雷のガクトゥーン」のサポーターサイトです

04.27.10:06

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12.07.16:51

さむうござんす

ひゅるるるるるるー

いつ出るか分からないシャルノス新刊の序文を唐突に置いておくなぞのあれ
(Ver1.3)


「メアリ・クラリッサが倒れました」
 セバスの足下でクロが犬の声で鳴いた。
クロは犬の形をしているがショゴスである。
主であるメアリが倒れたためセバスがハドソン婦人から預かって来たらしい。
_

 ジェイムズ・モリアーティは手にしているタブロイドから視線をあげる事無くそうかとだけ答えた。
「…」
「体調は、少なくとも昏睡から目覚めてからは健常です。日常会話には支障はありません…ただ」
 セバスにしては珍しく言葉尻を濁らせる。
「なんだ」
「我々と、あるじとの記憶は、ほぼ失われているようです」
失われた記憶はタタールの門に至る以前、メアリがホームズを訊ねた日から、今までのもの。ほぼ全て。
「原因は」
「『記憶の処理』を重ねすぎて神経に負荷をかけたのでは。と、飽くまで医者の見立てですが」
「…」
「医師はある程度信頼のおける方向で脳病理の碩学医ともぐりですが評判はそれなりな事象数式医、念のため内科と外科で数人づつ。魔女もみつかればと思ったのですがすぐに手配出来る者はおりませんでした」
「魔女はいらん。あまり集めると余計なものまで寄って来る。減らせ」
「はい。いいえ。はい。記憶の欠損の程度が大きく、復学は厳しいかもしれないとのことです」
「…」
 メアリが休学の扱いだったことをふと思い出す。
もっとも、作家として執筆をしていたので復学をする予定だったかは与り知らぬことではあるが。
「メアリ・クラリッサに、お会いになられますか?」
「…ああ」
_

「メアリ・クラリッサ・クリスティ」
 病室のベッドの上。ジェイムズ・モリアーティに振り向いた彼女はひどく、虚ろだった。
白いシーツと白い入院着、白い部屋に溶け込む淡い色。
「お友達の…方……じゃ…ないですよね……?」
 おずおずと、頼りなく、伺う様に彼を見上げる視線。
黄金と、揺れる水面。
黄金瞳が健在であるにも関わらず、その能力はなりを潜めているらしい。
「ジェイムズ・モリアーティだ。君とは…碩学院で少し交流があってね。親しくしていた」
嘘を重ねることに抵抗はない。
「ミスタ・ジェイムズですね。申し訳ありません。あたし、ここしばらくの…殆どの事を覚えていなくて…その」
「いや、構わない。それより元気そうでなによりだ」
ジェイムズは付き添っていた看護士に花束を渡し、踵を返そうとした。
「あの。ミスタ。よろしければ少し、お話できませんか?」
_

 病院の中庭には造花が生花の様に生けてあり、花壇を演出していた。
以前からあったもので精神療養の一環に作られたらしい。
_

 メアリは医者から気分転換と筋力低下のリハビリも兼ねて軽い運動を勧められていたらしく、昼は看護士と一緒に歩いている事が多いそうだ。
「同窓の方…ではありませんよね…先生をされていらっしゃるんですか?」
「似た様な事をしていた」
「臨時教授…ということでしょうか…?」
「そんなところだ」
 事実は全く異なるが彼の言葉に淀みやためらいは一切無い。
「あの…シャーリィ…ミス・シャーロットがどうしているか、ご存知でしょうか」
「息災だと聴いている」
「…よかった」
 本当に心配していたのだろう。メアリは力の抜けた笑みを浮かべる。
「見たところ元気そうだね。しばらくしたら彼女もダレス君もきみの見舞いにも訪れるだろう。連絡しておく」
「ありがとうございます…あの…ミスタ」
「何だ」
「どうして、こんなに良くして下さるんですか?」
「…」
「今日来る方があたしの恩人だと、お医者様に伺いました。あなたが病院とお医者様を手配して下さったのですよね?」
「…」
「あたしは、記録では研究室に所属してはいませんでした…」
学院へ行く時間は無かった筈だ。大方ハドソン夫人に聞いたのだろう。
「…」
「一介の生徒に過ぎないあたしに、ここまでして下さる程、親しかったのですか?」
「…」
「あの、出過ぎた質問で申し訳ありません…でも…その…」
_

「ひょっとして…」
_

「あたし…と、あなたは特別な関係…だったのでしょうか…」
 ジェイムズは逡巡する。
記憶を失っていても仔猫は碩学の卵だったのだ。
この状況、あの説明では疑問に思うのも当然だろう。
このまま、彼女は自分たちの事を忘れるべきなのかもしれない。
今ならば。白紙からやり直せる。
今なら。
 そして、彼は選択する。
「ああ、そうだ」
_
ジェイムズが病院を出て、歩き出すと暗がりからそっと従者である少女が姿を見せた。
「如何致しますか、あるじ」
「責任は取る」
「は」
セバスチャン・Mは己の疑似聴覚を疑った。
「……責任とは…」
「そうだな…嫁にでも貰うか」
「…は?」
彼女がとても機関人形にあるまじき声を漏らしたのを誰も責められなかっただろう。

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